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東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)121号 判決

一、特許庁における手続経過等及び審決要旨に関する原告等主張の一、二の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで審決の当否について検討する。

(一)、成立に争いのない甲第二号証によれば、原告ら両名共有の本件登録第五四三、〇〇九号実用新案の考案要旨は、本件審決の認定するとおりの理由によつて、その認定するとおりのもの(原告らの請求原因二の(一)記載)と認められる。

(二)、また(イ)号図面及びその説明書に示すものは別紙記載のとおりであつて、この記載における表現と審決認定の表現(右二の(二)記載)との間には多少の相違がないではないが、(イ)号図面とその説明書の記載とを照合して考察すれば、本件の対象物とせられた(イ)号のものは、これまた右二の(二)記載の審決認定のとおりのものと認められる。

(三)、そして両者を比較するのに、これまた審決指摘のとおりの一致点と差異点があり、前記審決指摘の(イ)及び(ロ)の差異の故に(なお後記参照)本件(イ)号のものは全体として本件登録実用新案の権利範囲に属しないものと判断するのが相当であつて、これと結論を同じくする本件審決は相当である。

三、(一)、原告らはまず、審決は本件実用新案の考案構成上の要件を回動骨の根端に固着した連結金具の構造だけに限定し、これを前提として立論し結論している違法があると主張する。そして登録実用新案の解釈は当該説明書中における登録請求の範囲の記載の全文に徴してこれを解すべきであり、該記載中の一部分だけを摘出してこれを解すべきではないとする原告らの主張は正にそのとおりであろう。しかし、実用新案の考案要旨は多くの場合これを各個の構成要件に分析し得るものであり、対象物がその権利範囲内のものであるかどうかを考えるに当つても、その各個の構成要件についてこれを比較し、それが相違することによつて全体としてその権利範囲に属しないものと判断せられる場合のあることはいうをまたないところであつて、本件審決が、本件実用新案の考察要旨中の連結金具に関する部分を摘出して、これと(イ)号のものとを比較し、その間の相違を認めて、これによつて本件(イ)号のものが全体として右実用新案の権利範囲に属しないものと判断したのも右の趣旨においてのものであること、前記審決要旨に徴し明らかなところである。

原告らは、本件実用新案は折畳式洋傘骨全体の構造を対象とするもので、すなわち主骨に回動骨を折畳自在に連結した完成された折畳式洋傘骨自体であるというが、そのいわゆる完成された折畳式洋傘骨自体といつても、それは本件登録実用新案における登録請求範囲に記載せられた各個の構成を有するそれであつて、単に主骨に回動骨を折畳自在に連結したというだけのものでないことは、原告らのいう登録請求範囲の解釈からしても当然のことであつて、審決指摘の理由によつて、本件(イ)号のものが、その指摘の相違の故に、全体として本件登録実用新案の権利範囲に属しないものと解せられる以上、本件審決にはなんら原告ら主張の(一)のような違法があるものとは解せられない。

(二)、原告らはまた、傘布を傘骨に取りつけるための切込溝の穿設位置につき、本件権利のものと(イ)号のものとにつき、両者間に差異があると審決が認めた前示(イ)の点の相違について、この相違はただ切込溝の位置を少しずらしただけのことであつて、作用効果上の差異は全然存在しないのであるから、この差異から両者の相違を認めた審決は違法であるという。

しかし、旧実用新案法下において取得せられ、現行法施行法の規定によつて現行法による権利とみなされた実用新案権の権利範囲を定めるにつき、従来の型説によるべきか、また考案説によるべきかの論議は暫くこれをおくとしても、本件登録実用新案にあつては、その説明書(甲第二号証)の記載において、審決も指摘するとおり、図面の略解の項には「第二図は本案の特徴たる回動骨の部分拡大図を示す」と記載せられていて、本件実用新案の特徴が右第二図図示の回動骨の部分にあることが明らかにせられており、しかも同図及び説明書全体の記載からすれば、ここに回動骨といわれているのは、この回動骨とその根端に固着せられた連結金具を含めての意味のものと認めるのが相当であり、本件登録実用新案の特徴は主として右の部分にあるものと認められる。そしてまた、右説明書の「実用新案の性質、作用及び効果の要領」の項においては、「本案は叙上のように回動骨(2)の根端に連結金具(3)を取付け、これに切込溝(4)を穿設してあるから、傘布を切込溝(4)に糸を以て緊密に締縛することができて、使用中に傘布がずれたり弛緩したりすることなく、その位置が安定して洵に好適である」と記載せられていて、切込溝が連結金具に穿設せられていることによる作用効果が強調せられている点から見れば、本件実用新案において、傘布取付用の切込溝を連結金具の部分に穿設したことには特別の意味があり、格別の作用効果があるものとして右の構成がとられたものと認めるのが相当である。従つて本件の実用新案は、右切込溝を連結金具以外の部分である取付金具その他に穿設するに比し、これを連結金具に設けることに特別の作用効果があるものとして、その出願がせられ、またその登録がせられたものであることは明らかであつて、今に至つて原告らが本訴において、切込溝の穿設部分を連結金具におくにせよ、取付金具の部分とするにせよ、その作用効果の上では何らの差異もないと主張するのは、とうていこれを首肯できないところであるとともに、その設置部分の差異により、その作用効果の上において相当の相違のあり得ることは、右説明書の記載及びなお後記するところから見てこれを認めざるを得ないところである。

原告らはなお、傘骨の主骨と回動骨との連結部分における連結金具と取付金具は極めて小さく、長さ一寸程度のものであると同時に、この両者は連結して始めて一本の傘骨を形成せしめ得るもので一体的に構成されているから、そのいずれに切込溝が穿設されていても、その作用効果上に優劣はないとも主張する。しかし、なるほど連結金具と取付金具とが原告ら主張のような極めて小さいものであり、また両者が連結して始めて一本の傘骨を形成せしめ得るもので一体的に構成されているものであるにせよ、回動骨に固着せられている連結金具と、主骨に固着せられている取付金具とは、折畳用洋傘骨における折畳みの機能を生ぜさせるために、両者が各その機能達成のための構成をとられているものであつて、連結金具の部分は、回動骨とともに、取付金具との枢着部分を軸として回動せられるものであり、従つて、同じ傘布取付用切込溝といつても、取付金具にあるものは、該金具が回動しないことからその位置を変えることは全然ないのに反し、連結金具にあるものは、該連結金具の回動につれてその位置も動かざるを得ないものであるから、如何にこの両金具が小さく、また近接して相連結せられているものであるにせよ、この両部分に穿設せられた切込溝をもつて、原告ら主張のように、両者はただその位置を少しずらしただけにすぎず、両者の作用効果には何らの差異もないものとは到底これを解することはできない。

従つて原告らの(二)の主張もまた失当である。

(三)、原告らはまた、審決の認める取付孔(9)の位置に関する差異について、(イ)号のものにあつても、連結金具の強度を強くするため当然取付孔(9)は連結金具の先端よりも、また上縁よりもできるだけ内方に設けるよう考慮せられているもので、この点においては本件の両者間にそれほどの差異がある筈はないと主張する。そしてなるほど(イ)号のものも商品であつて、取付孔(9)が連結金具の先端又上縁に余りに近くなつて、この部分の連結金具の強度が弱くなつては商品価値を失うに至るであろうことは、原告らの主張するとおりであろう。

しかし、本件実用新案のものにあつては、回動骨は連結金具の端部二重折りの部分には及んでおらず、右二重折り部分の連結金具の中間部分は全く空洞状態となつているのに反し、(イ)号のものにあつては、回動骨に対する牽引装置を具えている関係上、回動骨が連結金具の端部より更に突き出されていて、連結金具の二重折り部分にも回動骨が挿入せられており、この差異のために、本件実用新案のものにあつては、審決も認めるとおり、回動骨の開閉に当つて連結金具の先端が取付金具の内底に衝突しない範囲で取付孔(9)を連結金具の先端よりできるだけ内側に設け、連結金具の機械的強度を強くしたものであり、またそれをすることができるものであるが、(イ)号のものでは、回動骨が連結金具の二重折り部分にまで及んでいるため、取付孔(9)は、これを本件実用新案のものほど連結金具の内側に設けることのできないものであることは明らかであつて、これがため、両者の連結金具の強度において、相当程度の差異のあり得ることはこれを否定できないところといわなければならない。そして(イ)号のものの強度は、被告の主張するように連結金具の二重折り部分にも回動骨が入つていることによりある程度これを補い得るものであるかも知れない。しかし、これによる強度保持は、本件実用新案のものが取付孔(9)を連結金具の先端よりできるだけ内方に設けたことによる強度保持とは全くその方法を異にし、その構造を異にするによるものであるから、これがため(イ)号のものも同じくその強度保持の点では本件権利のものと大差はないものであるとしても、これは(イ)号のものが本件権利のものとその構造を同一にするがためのものではなく、全く別個の原因に基くものといわなければならない。従つて審決摘示の差異点(ロ)の点もまた両者間の相違として、(イ)号のものが本件権利のものの権利範囲に属するか否かを検討するについてはこれを無視するを得ないものであつて、原告らの(三)の主張もまたこれを採用することはできない。

なお、原告らは、本件実用新案において取付孔を内方に設けるように記載したのは単なる補足的説明であると解するのが妥当であるともいうが、本件実用新案における登録請求範囲の記載においても右の点は明らかにその記載がせられており、また右のようにしたことによる効果についても、実用新案の性質、作用及び効果の項において相当強調せられて書かれていることは前示甲第二号証に徴し明らかなところであつて、これを単なる補足的説明にすぎないものと見ることのできないことは論をまたない。

(四)、原告らはまた審決が本件両者間の差異として、回動骨に対する牽引装置の有無の点をあげたことをも審決の違法理由として主張する。しかし、審決が右の差異点をあげたのは、ただ両者間に右のような差異があるからその差異があるといつたに止まるものであつて、本件(イ)号のものが本件実用新案の権利範囲に属するか否かを検討するに当つては、右の差異点は全然これを問題としているものでないことは、成立に争いのない甲第一号証(審決)に徴し明らかなところであるから、本件審決が右の差異点をあげたが故に違法となるべき筋合のものでないこと、また論をまたないところであろう。

(五)、また原告らは本件実用新案の構造上における基本点は回動骨に連結金具を固定した点にあり、(イ)号のものにかような連結金具が用いられ、切込溝がその連結部附近にある以上本件実用新案の権利範囲に属するとも主張する。しかし、本件実用新案の要旨とするところは前に認定したとおりであり、(イ)号のものがその要旨の全部を具えたものではなく、両者間に相当の差異があつて、(イ)号図面及びその説明書に示すものが全体として本件登録実用新案の権利範囲に属するものということのできないことは既に説明したところによつて明らかである。

四、以上のとおりであるから、本件審決にはなんらの違法もなく、その取消を求める原告らの請求は失当である。

〔編註〕 本件に関する(イ)号図面および説明書は左のとおりである。

(イ)号図面

<省略>

(イ)号図面の説明書

(イ)号図面に示す折畳式洋傘骨は、被請求人の製作販売に係るものであつて、その構造は下記の如くである。

折畳式洋傘に於ける回動骨(2)の根端に連結金具(3)を固着し、該金具(3)の他端はU字形の二重折りとなしてその両壁に夫々取付孔(9)を先端部より内方に設け、その二重折りの部分を主骨(1)の先端に固着した取付金具(5)内に挿設し、取付孔(9)に支点軸(17)を貫通してこれを折畳自在に横架し、回動骨(2)の先端を扁平にして軸孔(10)を穿設し、これに連結片(13)を介して牽引杆(12)の先端を回動自在に連結し、取付金具(5)に切込溝(4)を穿設し、主骨(1)の溝内に設けた螺旋体(11)に上記牽引杆(12)の他端を連結すると共に、該螺旋体(11)の他端には牽引杆(14)の先端を連結し、該牽引杆(14)と根杆(16)とを取付片(15)によつて連結した折畳式洋傘骨である。なお図中(6)は支骨、(7)は轆轤、(8)は傘柄を示すのである。

即ち(イ)号図面に示す折畳式洋傘骨は、螺旋体(11)の牽引作用により回動骨(2)を自動的に開閉する場合のものである。

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